自分のリズムに耳を澄ます
朝活は、一日を豊かに彩る習慣として多くの人に支持されています。まだ世界が眠っている早朝、静寂の中でコーヒーの香りが部屋に広がり、音楽が穏やかに流れる。頭は驚くほど澄み渡り、自然と前向きな思考が湧いてきます。その日の予定を整理し、行動をイメージすることで、朝以降の時間までもが充実していく。規則正しい生活は体調を整え、作業効率を高め、読書も捗ります。寝つきがよくなり、SNSでは朝活仲間の不思議な連帯感が心を温めてくれる――そんな体験が、朝活をもてはやす声の背景にあるのは間違いありません。
けれど、私が本当に伝えたいのは「朝型こそ正解」という話ではありません。大切なのは、自分の内側にある“心地よいリズム”を見つけ、その流れを大切にすること。朝型か夜型かというラベルにとらわれず、自分自身の感覚に耳を澄ませて選び取ることこそが、本質ではないでしょうか。
静けさが教えてくれたこと
私自身、朝活に目覚めたのは30代後半になってからです。それまでは夜更けの静けさが好きで、深夜に仕事へ没頭する時間を何よりも愛していました。誰も連絡してこない深夜の数時間は、私にとって最高の創造の時間だったのです。朝型へ移行して気づいたのは、重要なのは太陽の位置ではないということ。
誰にも邪魔されず、自分だけのペースで思考を深められる環境こそが本質でした。カフェやコワーキングスペースは便利ですが、周囲の視線や微かな音が集中を妨げることもあります。
家着のまま、髪も整えず、普段使いのカップで淹れたコーヒーを飲む。誰の目線も気にせず、好きな音楽を流し、ただ静かに心を研ぎ澄ます。そんな時間を贅沢と感じ、その瞬間を喜べること自体が、自分を大切にする証なのだと今は思います。
自分軸で時間を選ぶ
尊敬する作家・五木寛之さんは、朝日が昇る頃に床につく夜型の生活を何十年も続け、自分に合ったリズムとして前向きに受け止めているそうです。この姿勢から学べるのは、他人の理想や社会の常識をなぞらず、自分の感覚を信じて時間を選ぶ強さです。
ビジネス書やSNSでは「早起きこそ成功の秘訣」と語られがちですが、それは数ある選択肢の一つにすぎません。大切なのは、外部の評価や一般論ではなく、自分が心地よいと感じる時間帯を自覚し、そのリズムを尊重すること。
自分の体調、仕事のスタイル、人生の優先順位に沿ったリズムを築くことで、長く健やかに働き続けられます。朝にしろ夜にしろ、他人の価値観に左右されず自分に合った時間を選び取ることこそ、持続的なキャリアと人生を支える土台ではないでしょうか。
その時間帯は、あなたを映す鏡
あなたにとって、誰にも邪魔されず集中できる時間はいつですか。朝の静けさに満たされる時かもしれないし、夜の深みの中かもしれない。自分のリズムを知り、それを受け入れることは、自分自身の生き方を選ぶことにほかなりません。
太陽の動きに合わせる必要はありません。自分だけの時間軸を見つめ、その流れを肯定するところから、ほんとうの一日が始まります。