「新人でありたい」──この言葉は、今になって大切に感じる考え方です。
かつてスタートアップで経営職を務めていた頃、身の丈を超えた役職を与えられ、がむしゃらに走り続けていました。会社を成長させたい一心で、目の前の課題に全力で取り組み、気づけば周囲からも頼られる存在になっていました。
感傷に浸る余裕もなく、必死に走り続けていたある日、ふと振り返ると、現場との距離が大きく開いていることに気づきました。
等身大で話せる社員も、本音で意見をくれる人も、ほとんどいなくなっていたのです。机上で数字や報告を受け取ることはあっても、現場の熱や悩みを直接感じ取る機会は、目に見えて減っていました。
社会人になりたての頃は、毎日のように先輩や上司からフィードバックをもらっていました。ときには食傷気味になるほど指摘を受け、それでもそこから多くを学びました。
しかし、立場が上がるにつれて直接的なフィードバックは減り、自分に意見してくれる存在はほぼいなくなっていったのです。
創業からまだ日が浅い私に、率直な意見をぶつけてくれる人は限られています。だからこそ、新人の頃の感覚を忘れず、自ら学びを取りに行く必要があります。
言葉としての助言を待つのではなく、日々の出来事や数字、相手の反応といった「事象」から状況を読み取り、自分の学びに変えていく姿勢が欠かせません。
もし少しでも「自分は偉い」「社長だから」という気持ちが芽生えたら、それはゲームオーバーです。
若い頃は「偉くなりたい」と思っていましたが、今はむしろ、ずっと新人でいたいと願っています。肩書や経験にあぐらをかかず、常に吸収し、柔軟に変わっていける存在でありたいのです。
この「新人であり続ける姿勢」は、経営者に限らず、すべてのビジネスパーソンにとって大切です。役職や年次が上がるほど、フィードバックは得にくくなります。そのときに、受け身で待つのではなく、自ら問い、動き、学びをつかみにいく人が、長く成長を続けられるのではないでしょうか。
新人の頃のように、恥を恐れず質問し、失敗を糧にし、素直に吸収する。そういう人は、どんな変化の中でもしなやかに生き抜く力を持っています。
「新人マインド」を持ち続けることは、成長のためだけではありません。
それは、謙虚さを保ち、人の声に耳を傾け、現場とつながり続けるための土台でもあります。肩書や経験はあなたを守ってくれる反面、周囲の声を遠ざける壁にもなります。その壁を越えるのは、自分の姿勢しかありません。
あなたは今、自分の立場や経験に満足して立ち止まりますか?
それとも、新人のように学び、現場に触れ、変化を楽しむ日々を選びますか?
私はこれからも、生涯、新人であり続けます。
それが、どんな時代でも成長とつながりを失わないための、私なりの答えです。