キャリアを歩んでいると、「自分にはまだ足りないものがある」と感じ、その不足を埋めようと努力することがあります。資格を取る、実績を積む、昇進を目指す──こうした動きは強い推進力になります。言い換えるなら、それは車で言う「ガソリン」のようなもの。注ぎ込めばエンジンが回り、前へと進めるのです。
ただ、ここで立ち止まって考えてみたいのです。働くうえで、このガソリンに頼り続けることは本当に正解なのか、という問いです。
「もっと結果を出したい」「今の自分では足りない」という思いに突き動かされるとき、それはガソリンによる推進力です。このエネルギーは確かに有効で、短期的な加速には欠かせません。
しかし同時に、このガソリンは外から注ぐもの。比較や不足感に依存しているため、その比較対象が変わった途端に力を失うリスクがあります。たとえば「年収で上回りたい」と思っていた相手が転職してしまえば、自分のモチベーションは揺らいでしまう。つまりガソリンは強力である反面、サステナブルではないのです。
一方で、自分の中から自然に湧き出る「温泉」のようなエネルギーがあります。これは誰かに勝ちたい、評価されたいといった相対的な基準ではなく、気づけば夢中になっている瞬間から生まれる力です。
たとえば、時間を忘れて没頭してしまうこと。チームで協働する過程そのものに喜びを感じること。こうした「温泉型のエネルギー」は、外部環境に左右されず、長期的に持続するモチベーションになります。これは言い換えると、自分の「価値観」そのものが動力源になっている状態です。
キャリアにおいては、ガソリンも温泉も、どちらも大切な要素です。ガソリンは短期的な成果や加速をもたらし、温泉は長期的な安定と持続を支えます。
ただし問題は、どちらか一方に依存しすぎること。特にガソリンばかりに頼ると、燃料切れを起こしやすく、キャリアの歩みが急に止まってしまうこともあります。
だからこそ、問い直すべきは「自分の中に、自然と湧き出る温泉はどこにあるのか?」ということです。外部の比較や不足感ではなく、自分の中に絶えず流れ続ける価値観。それを見つけられたとき、生涯にわたってキャリアを支える動力を得ることができます。
今、あなたを動かしているのはガソリンでしょうか。それとも温泉でしょうか。立ち止まって自分のエネルギー源を見つめ直すことが、これからのキャリアをより確かなものにしていくはずです。