「足るを知る」という言葉に、私は何度も救われてきました。
もともとは「欲を抑え、今あるものに感謝して満足する心を持て」という意味で、禅や老子の思想にも通じる深い言葉です。
現代のビジネスパーソンにとって、この言葉は「焦りをほどく鍵」なのかもしれません。
たとえば、「自分はもっとできる」「もっと成長しないと」という感覚。
これは一種の“スーパーマン思考”で、意外と多くの人が持っている感覚だと思います。かくいう私も一緒です。
確かにその気持ちは、自分を奮い立たせたり、行動を促す原動力にもなる。
でも、それが行きすぎると「自分への過信」につながっていく気がするのです。
「自分がいないとこのチームは回らない」
「自分がやらないと成果が出せない」
「他の誰より自分が一番優れている」
そう思い込んだ瞬間から、他者を軽視し、視野が狭まってしまう。
結果として孤立し、信頼や協力といった“チームの力”が失われていきます。
私のバイブルの一つである『人を動かす』(デール・カーネギー)でも、こう語られています。
「人は、自分のことを重要な存在として認められたい生き物である」
自分を過大評価するのではなく、「足りない部分を受け止め、他者と補い合う」。
それが、組織における信頼や成果を生むのだと、この本は教えてくれました。
人は成長を求める生き物です。
でも、その成長は“虚像の自分”からは始まらない。
自分の強さだけでなく、弱さを認める勇気。
これが「足るを知る」という姿勢であり、成長の本当の出発点です。
「足るを知る」とは、ただ慎ましくあるということではありません。
むしろ、いまの自分を正確に理解し、無理に完璧を目指すのではなく、人との関わりの中で自分の強みを活かしていく。
そんな、しなやかな処世術のようなものかもしれません。
自分一人で抱え込まず、必要なときは頼り、弱さにも向き合いながら進んでいく。
そうしてこそ、キャリアは「背伸び」ではなく、「地に足のついた成長」へとつながっていくのではないでしょうか。