「5年後どうなっていたいですか?」
そんな問いに、答えに詰まってしまう。
すると、自分は何か足りないのではないかという不安に駆られる。
このような感覚を抱えている人は少なくありません。
社会には「目標を立てて努力することが正解」という空気が強くありますが、実際には目標がうまく描けないからこそ立ち止まっている人も多いのです。
でも、それは「やる気がない」とか「ビジョンがない」という話ではありません。
むしろ、「進み方のスタイル」が違うだけだと思うのです。
心理学者キャロル・デュエックが提唱した達成目標理論によると、人の成長には2つの主な志向があるとされています。
自分の成長やスキルの向上そのものに価値を感じるタイプ。
小さな進歩に喜びを見出し、たとえ失敗しても学びとして受け取ります。
他者との比較や評価を重視し、明確なゴールに向かって力を注ぐタイプ。
外からの期待や数字が行動の原動力になる傾向があります。
前者はいわば「積み上げ型」、後者は「目標達成型」と呼べるかもしれません。
どちらが優れているということではなく、違いを知ることこそが重要です。
そして、社会や組織の“成果文化”に馴染みやすいのは後者であるがゆえに、前者の人は「自分には目標がない」と自信をなくしやすいのです。
目標を考えるとき、つい「役職」「年収」「影響力」など名詞で答えがちです。
しかし、本当に自分が大切にしているのは、もっと感覚に近いものではないでしょうか。
「どんなときに夢中になれるか?」
「どんな仕事が終わったときに、充実感を感じるか?」
そんな問いに目を向けると、「考える」「つなぐ」「整える」など、動詞が浮かんできます。
この“動詞の感覚”こそが、自分らしさのヒントになると思うのです。
「明確なゴールを描くこと」は素晴らしいことですが、それができないときも、自分らしい一歩は踏み出せます。
むしろ、目標を描けないからこそ、自分の感覚や状態を起点にして、じっくりと納得感のある道を整えていくという選択肢もあるのです。
現状を変えたいという気持ち、違和感を覚える自分の感性。
それらは、すでに“自分を動かす原動力”になっています。
自分の“答え”は、誰かの正解をなぞることではなく、自分の感覚の中に眠っています。
それを丁寧に拾い集めることができれば、たとえゴールが見えなくても、自分らしいキャリアはきっと始められます。